輸出する護衛艦とは違う!けど豪州へ向かった「のしろ」
2025年3月11日から15日までの5日間、海上自衛隊の護衛艦「のしろ」が、オーストラリアのパースに所在するスターリング海軍基地に寄港しました。「のしろ」は2月17日から4月3日まで、令和7年豪州方面派遣訓練に参加しており、スターリング海軍基地への寄港は、その一環として行われたものです。
【画像】オーストラリアへ向け出港する「のしろ」(画像:海上自衛隊)

海上自衛隊の艦艇が外国へ寄港することは、現在では珍しくなっています。通常海外で寄港する海上自衛隊の艦艇は、その国の海軍との親善関係を深めるためのレセプションや共同・親善訓練などを行っていますが、今回の「のしろ」の寄港はセールスが主目的です。
すなわち、オーストラリアの政府要人と同国海軍に、「のしろ」の属するもがみ型護衛艦をアピールして、商戦を有利に進めるという重要なミッションが課せられているのです。
オーストラリアは現在、同国海軍が運用しているアンザック級フリゲートを後継する新型水上戦闘艦の導入計画「プロジェクト・シー3000」を進めています。オーストラリア政府は2024年11月25日に、日本の提案した「令和6年度護衛艦」と、ドイツの提案した「MEKO A-210」を最終候補に選定しています。
令和6年度護衛艦はもがみ型ではなく、もがみ型を大型化して能力を向上するものです。ならば、もがみ型の「のしろ」をオーストラリアの政府要人や海軍に見せても意味はないと思われるかもしれませんが、対抗馬となるMEKO A-210もまだ実艦は存在していません。令和6年度護衛艦のベースとなるもがみ型の実物を見せられたことは、商戦を進める上で有利な要素になると筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。
安倍政権では相当ムリしたことも!?
振り返ると、2017年6月に開催されたパリエアショーには、やはり輸出商戦を有利に進める目的で、海上自衛隊のP-1哨戒機が1機参加しています。
【画像】2017年パリエアショーに参加したP-1哨戒機の窓にはフランス語で「はじめまして」と書かれたメッセージボードが貼られていた(竹内 修撮影)

当時フランスは同国航空宇宙軍の運用している「アトランティック2」哨戒機の、またドイツも同国海軍が運用している「P-3C」哨戒機の後継機導入をそれぞれ検討していました。両国にアピールするため、防衛装備品の輸出に積極的だった安倍政権の肝いりで、P-1はパリエアショーに参加することになったわけです。
2017年の春から初夏にかけて、P-1は小さなトラブルに見舞われており、飛行可能な機体は数機しかありませんでした。このため海上自衛隊はパリエアショーへの参加を渋っていたようなのですが、故安倍首相の強い要望には抗えず、2機のP-1を派遣すれば、どちらか1機はパリまでたどり着けるだろうと考えました。
2機のうち1機は給油のため着陸したインド洋のディエゴガルシア島でトラブルに見舞われ、パリまでの飛行を断念。パリエアショーでは1機のみが地上展示されることとなりました。
筆者はこの2017年パリエアショーの取材を行っていますが、パリ到着前にこの話を聞いていたため、「そこまで無理をしてP-1がパリへ行く必要はあるのだろうか?」と思っていました。
パリエアショーは月曜日から金曜日まで、軍人や航空宇宙業界のビジネスマン、メディア関係者などを対象とする「トレードデイ」と、土・日曜日の一般見学者を対象とする「パブリックデイ」から構成されています。筆者はトレードディで会場を訪れていた来場者、すなわち「プロ」の方々にP-1の感想を聞いてみたところ、おおむね次のような話を耳にしました。
「日本が国産哨戒機を作ったことは知識としては知っていた。しかしこうしてパリまで飛んできたP-1をこの目で見て、失礼かもしれないが、日本が高性能な航空機を作る力を持っている国であることを実感できたし、日本の航空機や航空産業に対するイメージも、ポジティブな方向に変わった」
実物見て「おおっ!」ってなった海保・海自
残念ながら仏独両国はP-1を採用しませんでしたが、世界各国から来た少なからぬ「プロ」に、日本の技術力をアピールできた意義は、小さなものではなかったと筆者は思います。
【画像】2018年に長崎県の壱岐空港で飛行実証を行った「ガーディアン」竹内 修撮影)

日本でもそのような事例があります。現在、海上保安庁が運用し、海上自衛隊も採用を決めたUAS(無人航空機システム)「シーガーディアン」のメーカーであるジェネラル・アトミクス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)は、2018年5月に長崎県でシーガーディアンの原型機「ガーディアン」の飛行実証を行っています。
この飛行実証には海上保安庁や海上自衛隊の方々も数多く招待されており、多くの「プロ」が実際にガーディアンの能力を目の当たりにしたことが、早期採用につながったと言われています。
「百聞は一見に如かず」という言葉もあるように、防衛装備品の輸出にあたって、要職にある多くの方々に実物を見てもらうことは、その後の商戦でも、国家の技術力をアピールするうえでも、大切な事なのではないかと筆者は思います。
【輸出するのは「違う艦」!?】これが「オーストラリア輸出用」護衛艦です(写真)