世界自然遺産に登録されている鹿児島県・奄美大島の生態系に、危機的な被害をもたらした外来種マングース。毒蛇ハブ対策の「救世主」として、半世紀近く前に野に放たれたが、希少な在来の動物を捕食したり、作物を食い荒らしたりすることが問題となり、一転して「害獣」として駆除の対象に。捕獲専門集団「マングースバスターズ」や関係者の、約30年にわたる取り組みの結果、環境省は2024年9月、根絶を宣言した。

東京23区や琵琶湖より広いほどの面積の島で、長期間定着した後の根絶は例がなく、世界各地の外来種対策の参考事例になるとみられる。一方、天敵がいなくなったことで、個体数が回復した国の特別天然記念物アマミノクロウサギによる農業被害が拡大。希少種の保全管理のあり方が新たな課題となっている。

人間の都合で連れてこられた末、生態系保護の名の下“絶滅”に追いやられたマングース。捕獲数は約3万2600匹に上る。「世界的に類がない」(環境省)根絶達成に至る経緯をたどると、外来種問題と人間の身勝手さの、表裏一体の構図が見えてくる。(共同通信=高槻義隆、渡具知萌絵)

※筆者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。

▽実は昼行性のマングース、夜行性のハブの天敵にはならず

マングースはイタチに似た細長い体と短い四肢、長い尾が特徴の哺乳類だ。もともと日本にはおらず、ハブやそのエサとなるネズミの駆除を目的に1910年、現在のバングラデシュからフイリマングースという種類が沖縄本島に持ち込まれた。

奄美大島には1970年代後半、沖縄本島から数十匹が連れてこられた。1983年1月19日付の奄美地元紙・南海日日新聞によると、旧名瀬市(現奄美市名瀬)の北方の赤崎に「(昭和)53年から55年までの3年間に計30匹のマングースを放し繁殖状況を見守ってきた」。記事では男性の実名入りで「ハブ対策と繁殖実験を兼ねて放した」と報じられている。

だが、人知の浅はかさが露呈する。マングースは昼間に行動する昼行性だ。一方、ハブは夜行性。そもそも両者が遭遇することはまれで、マングースはハブの天敵になどならなかったのだ。

すれ違い生活のハブの代わりにマングースのエサとなったのが、アマミノクロウサギやケナガネズミ、アマミイシカワガエルなどの希少な在来種だった。マングース導入は完全に裏目に出て、奄美の生態系は急激にバランスを崩し始めた。

▽サツマイモ、ひな、ウサギ、被害拡大で脅かされる固有種

放獣からまもなく、マングースによる被害が確認されるようになった。赤崎のある島北西部で、サツマイモやジャガイモ、スイカなど根菜類や地上で実を付ける作物はことごとく食い荒らされ、鶏舎からはひながさらわれた。

農家は自衛策として箱わなを仕掛けて捕獲したが、すぐに手に負えなくなった。栽培する作物を根菜類から、マングースが食べない葉物に切り替えもしたが、侵入を防ぐための網やビニールハウスを破る乱行ぶりに、お手上げ状態だった。

奄美におけるマングースの生息状況を、最初に調査したのは地元の奄美哺乳類研究会。1991年発行のリポートによると、奄美固有の野鳥で、国の天然記念物ルリカケスのひなを襲った目撃例があるとして「在来種個体群に対し、マングースが少なからず影響を与えている可能性がある」と指摘。国や県による駆除などの対応を求めた。

この頃、固有種の宝庫として知られる奄美市名瀬の金作原では被害が顕著になってきた。研究会メンバーで、環境省奄美群島国立公園管理事務所の阿部慎太郎さん(61)は「マングースの分布が広がるにつれ、たくさんいたアマミノクロウサギなどが見られなくなった。これはまずいと思った」と振り返った。

▽追いつかない捕獲

赤崎地区がある旧名瀬市は1993年10月、マングース捕獲者を募集し、駆除に乗り出した。島内の他町村も同調し、島を挙げた態勢となったが、課題は山積していた。マングースは当時の鳥獣保護法により保護動物扱いで、捕獲者を増やしても全体の捕獲数の上限があり、集めたマンパワーを生かし切れなかった。

また、1匹数千円での買い上げ方式のため、捕獲しやすい農作地帯でわなを仕掛ける人がほとんどで、個体密度が低い山の中に入ってまで捕る人はまれだった。捕獲開始当時の生息数は1万匹以上と推定されたが、繁殖数に捕獲数が追いつかない状態で、抑制どころか島全体へのまん延が懸念される状況となっていった。

▽捕獲に注力できるように、バスターズ結成

駆除開始から3年後の1996年、環境庁(当時)は奄美大島の生態系保全に向け、マングースの駆除や個体数制御に関するモデル設計に着手。2000年度から本格的な防除事業が始まった。

山中の駆除に向けた大きな一手が講じられたのは、外来生物法が施行された2005年のことだった。捕獲者の待遇を、捕獲した個体を定額で買い取る報奨金制度から、一般財団法人の嘱託職員として月給を支払う雇用制度へと切り替えたのだ。捕獲数が少なくても、手取りは保障されるため、山中の活動に注力できる。マングースを駆除し、環境を元に戻すことを目標に結成されたのがバスターズだ。

2005年度から、環境省の防除事業を受託する一般社団法人自然環境研究センターが全国から募集し、12人でスタート。2012年には最多の54人が雇用された。

2007年からは、わなを避けるマングースを捕る探索犬を導入。バスターズの後藤義仁さん(49)は「道なき道に高密度にわなをかけて見回ったり、探索犬とともに森や崖などを歩き回ったりした。ハブやハチと遭遇して被害に遭ったり、崖から転落しそうになったりした人もいる」と語る。

▽わなに別の動物が…「混獲」問題を解決

マングースの捕獲が進み始めたことに伴い、個体数が回復してきた在来種がわなにかかってしまう「混獲」が増え始めた。問題となったのは捕殺用の筒わなだ。

エサを探すために、狭い所に頭を突っ込むマングースの習性を突いたもので、エサのにおいにつられて筒に頭を入れると、中のバネで首が挟まる。天然記念物のルリカケスをはじめアマミトゲネズミやケナガネズミなどが頻繁にかかってしまうようになった。

バスターズはわなの改良に着手。内部の仕掛けや筒の長さなどに試行錯誤を重ね、2008年、在来種がかかりにくいわなが完成した。後藤さんは「希少種が捕獲されるのは本末転倒。みんなで考えた混獲対策のアイデアを技術のメンバーが形にしてくれた」と話す。

駆除が進み、個体数が減少するに従って、2002年から2006年まで2千匹台だった捕獲数は2007年から千匹以下に。2014年には百匹以下、2018年の1匹を最後に「捕獲ゼロ」が続き、根絶宣言に至った。

▽「マングースを持ってこなかったら、マングースを殺さなくて良かった」

自治体による駆除を含め、根絶までのマングース捕獲数は約3万2600匹。環境省の対策事業費は計35億7千万円に上る。マングース防除事業は沖縄本島で続いている一方、奄美大島では新たな外来種の侵入警戒に移っている。

奄美群島国立公園管理事務所の阿部さんは「人がマングースを持ってこなかったら、たくさんのマングースや在来種を殺さなくてよかった。人が起こしたことの尻ぬぐいをバスターズがしてくれた。外来生物が起こした問題とその代償をきちんと考え、島の野生生物のあるべき姿を維持するためにこれからどうしたらいいか考えてほしい」と訴える。

沖縄大の山田文雄客員教授(72)によると、マングースは19世紀にハワイやカリブ海の島々、アフリカの島などでネズミや毒ヘビ対策で導入され、奄美や沖縄同様、希少種の絶滅や生態系危機を引き起こした。「マングース根絶は難しく、奄美大島の事例は海外でも驚きと称賛をもって迎えられている」という。

一方、アマミノクロウサギをはじめとする希少種の回復に伴い、交通事故や農業被害、居住地への侵入などの問題が新たに発生している。山田客員教授は「希少種が増えることで良いことも悪いことも起きる。行政も住民も、共存するために適切な保全管理策を取ってほしい」と願った。

 
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